【鴻巣市川里ふるさと館】は、1993年竣工《相田武文*1》設計である。コンクリートの素材感を生かし、線と面を有機的に取り合わせ、風景に方向性と秩序を与えた斬新なデザインは、広大な田園地域に新しい空間を形成しているとしているとして、1994年には彩の国景観賞を受賞した作品である。
建物の外に並ぶ沢山の白いモニュメントのコンクリート版と列柱は、よく見ると少しずつ角度がついて面白い。照明も組み込まれていて夜景は幻想的だという。しかし、多くのモニュメントは建物の経年変化と併せて維持管理の負担になりそうである。「税金で建設維持管理される公共建築のデザインについて、建築家は自制的であるべき」との意見が、訪ねたい・使い続けたい建築の調査メンバーから出た。
建築のデザインが持つ地域を元気にする力や文化は大切である。一方、多くの公共建築が大規模改修や建替えの時期を迎え、ライフサイクルコストに見合うデザインとなっているのかも問われている。2017年策定の《鴻巣市公共施設等総合管理計画*2》では、川里ふるさと館内の川里図書館が利用検討評価施設となっている。大規模改修の基準となる築30年を迎えることから、施設のあり方を検討するとされている。使い続けたい建築となるのか心配である。
次の写真は、【行田市郷土博物館】《1988年竣工、土屋巌の設計》である。忍城本丸跡地に建つ重厚なデザインである。30年以上経っても、使われている孔開きレンガは味わいのある美しい色合いを保ち、打ち放しのコンクリートの柱も角の処理が丁寧に行われ今もきれいである。手入れも行き届いていて維持管理のし易さが伺える。
維持管理の視点から、同時期に建てられた二つの公共建築のデザインに違いを感じた。地域を元気にする公共建築のデザインの力は、是非とも維持管理の課題を乗り越えて欲しいと思う。
*1:相田武文は、教鞭をとった芝浦工業大学東大宮キャンパスで、同時期に、【斎藤記念館】《1990年竣工》を設計する。キャンパスの一部ということもあり、【川里ふるさと館】のデザインに比べて線と面の取り合わせがコンパクトで柔らかい。線と面が傾き対話しているようで楽しげで学び舎に相応しいデザインとなっている。大学法人が大学経営として建物を維持管理していることも、建物の表情に現れているように感じる。
*2:公共施設等総合管理計画とは「地方公共団体が所有する全ての公共施設等を対象に、地域の実情に 応じて、総合的かつ計画的に管理する計画」のこと。
- 公共施設の老朽化、改修・更新費用などの増大、
- 人口減少、少子高齢化に伴う利用需要の変化、
- 地方財政の悪化、などを背景として、公共施設の統合や廃止を図ろうとするものである。
総務省の指導のもと、2021年3月現在、全国で99.9%の地方自治体が作成済みである。
文・写真:古里実