設計:坂倉建築研究所東京事務所
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青年を謳歌するためのメッセージが盛り込まれた建築

この建物は、日本が高度経済成長期を迎えている1984年に「青年の家」として建築されました。「青年時代」という人生の大きな節目を迎えることへの称賛とこれからを過ごしていく若者たちへの心構えを表現していると感じます。設計者の解説によると、加須市花崎という埼玉平野の純農村から郊外の風景へ移りつつある場所で都市的な生活スタイルを仲間たちと気持ちよく学ぶための施設として、「住宅的なもの」をデザインしたという。

 

まず、目に入るのは、白っぽく光るタイルの無機的な壁。特に駐車場へ続く100mの壁に驚きます。だが、長い壁の最終端部がくるりと内側に折り込まれたデザインに設計者の笑みを感じます。このタイルは外光の変化に応じて表情を変えます。ラスタータイルというかなり凝った製法のタイルを使い、更にタイルの文様を入れているのは注目ポイントです。

建物の上部を見ると、ランドマークになっている大きな尖塔が目立ちます。隣には後から建築された高校の屋根の上にもこの尖塔を似せたものが乗っかっています。建物の要所要所にある小さな切妻屋根も気になります。

中庭に注目。奥行きの深い単調になりがちな中庭を囲む建物部分は設計者の腕の見せ所かも。宿泊室のベランダの奥行きの演出や縦長や四角のバリエーションのある窓を愉しみたい。

建物に入ってのファーストコンタクト、ロビーは来訪者にメッセージを与えています。この大きな吹き抜けのある設えに青年時代の堅さと華やかさを感じます。

2階は社会という決まりの多い世の中での過ごした方を丁寧に伝えているようです。階段の踊り場で気分を整え、ラウンジへ。傾斜した若干低めの天井の下で、低い椅子に腰を深く下し視点がぐっと下がります。上を見上げて、天井のスリットにほっと一息つけます。また、別の場所では吹き抜けを背にした女性彫像が「愉しんでね」でも「静かにね」というサインを表現しているようです。

空間が変わるときに雰囲気の変化をザインで示す「結界」。「イエの型」は坂倉建築研究所が長年培ってきたデザインアイテムで大人のマナーを学んでほしいという洗練されたメッセージではないでしょうか。

体育館は閉じた箱ですが、中に入ると、大胆なトップライトが明るく競技コートを照らしています。柱、開口部のちょっとしたデザインが大人の配慮を感じさせる粋な仕草です。

文:若林祥文 写真:若林祥文、STEP-image太田まさお