埼玉会館は前川國男が設計した名建築だが、多くの来場者は展示や観劇を目的に訪れる。目的のものを観る為に訪れるのだから、建物をじっくりと眺めるという意識が無いのは当たり前だろう。そのような建物で、2021年に埼玉会館にて撮影ツアーなるものを行わせていただいた。
普段素通りする建物を、写真を撮るという行為を間にはさむ事でより興味を持ってもらいたいという狙いだ。
撮影ツアーでは【四角いものを探そう】というサブテーマを設けた。
サブテーマを設けた理由はツアー参加者を盛り上げるためと言うよりも、テーマを探す事により、色々な視点から建物を見つめてもらう動機付けの意味合いが強い。今回は初心者も対象としていたので分かり易い四角にしたが、三角や丸などにすると、より皆の視点の違いが出て面白いだろう。建物の説明は最低限にし、「下から覗くとこんなとこにも四角が!」とか「こんなディテールまで誰かがデザインして造られてるなんて建物ってすごいですよね」などと声がけしながら、普段素通りしていた建物の魅力や面白さに気付いてもらう働き掛けをした。
元から前川や建築に興味のある参加者が半数以上を占めたが、写真に興味があったり、偶然イベントを知ってなんとなく参加したという方も居り、建築好きのすそ野を数人程度だが増やせたのではないだろうか。
建物を観る楽しみ方とは?
ある時友人が「建物の観かたや楽しみ方を教えて」と言ってきた。しかしそれは自由で正解などない。
このサイトの選考委員や一緒に調査したメンバーの間でもバラバラだ。
県の設計OBは開発のトータルのバランスに眼をやり、ゼネコンの設計OBは雨じまいや維持管理の計画性が気になる。元学芸員は意匠デザインの面白さや、その時世の美術の潮流の影響を考察し、建築史家はその設計士の師匠や関りのある人との気配や影響を見つけ興奮する。建築写真家は陰影の出方と照明計画が気になる。
もし楽しみ方のヒントがあるとすれば、それは細部に至るまで設計や現場に関わる大勢の人の手によって建てられたという事を再意識してみる事だろう。
そうして観ると角が丸くなってたり、欠けてたり、段々になっていたり。「わざわざ何でこう造ったんだろう?」と、造った人達の意図や苦労を想像してみると楽しくなってくるのではないか。
埼玉会館では建物見学ツアーも不定期だが開催されている。
そうしたツアーが無くても、いつも訪れている図書館や博物館や文化会館へ、建物を観る為だけに出かけてみよう。いつも入っているのと違う入口から入ったり、周りを歩いて建物を観てみる。すると、意外と建物の形すら知らなかったりすることもある。建物に眼が行くようになると、街を歩くのももっと楽しくなるので是非お勧めする。
人生を豊かにする方法として知識の蓄積も素晴らしいが、新たな視点をさがす視点の蓄積も人生を豊かにする。
写真・文:STEP-image太田正夫