建築と彫刻は歴史を辿れば、その占有するスペースの比率は違うにせよ、内に外に、不即不離の関係にある。1960年.70年代からはじまった屋外彫刻のコンクールの方法は、まちづくりに彫刻を援用する方法として全国に広がり、県内にもあちこちに彫刻が設置されている。埼玉県では、平成6年度に「アートに出会うまちづくり事業」を計画、そのなかで屋外に彫刻を設置し、県民とアートの新たな美との出会いの場を提供する「彩の国彫刻バラエティ」を実施し、5年で、公募、推薦をふくめ30体あまり設置してきた。
その設置については公共空間を目途としたことを考えれば、単に彫刻を屋外に設置するのではなく、まさにパブリックアートの意義を踏まえた事業と言える。ただ、それまでの多くは、建設後すでに制作されていたものを後付けで設置するというものだった。
パブリックアートの歴史のあるフランスやアメリカ建築費の1パーセントをアートでという法があり、わが国でも首都圏で当初からアートの導入システムを積極的に考えられた時期もあるが、その後の進展はあまり聞かれない。ガラスに鉄骨、コンクリートなどの素材で成立する昨今の現代建築が創り出す無機的な空間に対して、個性的で創造的な空間形成のもとに地域のビジョンを視覚化、共有可能なイメージを形成するというパブリックアートの社会的機能を考えるなら、アートを単なる装飾として扱うのではなく、建設計画の当初から建築家と彫刻家を含むアーチストの協働が必要なのである。
ふたつの建築と彫刻の例を見てみよう。
1.さいたま文学館
大きな円筒形のガラスが周囲をめぐり、光を取り入れた広やかな文学館の建物。その正面に4本の湾曲したステンレスの上で風に吹かれて軽やかにその形状を変えながらまわる高田洋一の《言葉を紡ぎ出すもの》。近くの公園ひろばには情報メディアのシンボルである新聞を土で焼き積み重ねた三島喜美代の作品、手をかたどった両手と手のひらをくりぬき、周囲の風景を映し出す3つのパーツから成る鎌田恵務の作品。
2.埼玉県立大学
4階吹き抜けの総ガラス張り、天井からも横からも光がさんさんと降りそそぐミニマルな空間。大学の正門前の広場には13基のステンレスの円柱が点在し周囲の風景を映し出しながら入口へと誘う鎌塚昌代志の《昇地》。円柱の頂には芝生が置かれ、さながら空中に浮かぶかのようなトリッキーな仕掛け。
大学の建物内部には建築家の要請もあり、光を主とする6人のアーチストが参加。予算規模の変更による作品サイズの大きさに不満が残るものの、天井に設置されたプリズムが光を通し床や壁に照らされ、時とともに空間も変容させていくチャールズ・ロスの作品。鏡面にデジタルカウンターと発光ダイオードを埋め込み、0から9までの数字を明滅させ、無機的な空間に生命にも通じるリズムを与えるお馴染み宮島達男の作品。少しユニークなのは、1階壁に描かれたひとがたを模したデザイン。無味乾燥な案内図に添えてヒューマンな温かみを演出している舟橋全二のもの。
新しく生まれてくる建築空間に対して、こうした多様な表現方法を内包する彫刻やアートの関りの例は豊かな空間を生むヒントにはなるのではないだろうか。