地球の窓と言われている長瀞は我が国の地質学の発祥の地。そこに立つ端正な建物で、前川國男が設計した県内3つ目の最晩年期に当たる作品。長いアプローチをカエデの森や県内で採取された岩石を眺めながら歩く。正面入り口に入ると巨大なサメが前川の名付けた深い青色の「成層圏ブルー」に塗られた天井の下を泳いでいる。計画時に学芸員たちは海棲生生物の生体復元模型を吊るしたいと要望していた。格子状の天井構造は頑丈なワッフルスラブを採用していて、10周年に当初からの思いが実現したという。建物は、中央にオリエンテーションホール・天然記念物コーナーの軸線的な吹き抜け空間が通り、その先には明るいカエデの森が見える。軸線的空間の左に県内の代表的な森林を再現した生物展示ホール、右に3億年におよび埼玉の台地の成り立ちを紹介した古生物展示ホールがあり、それぞれが片流れ屋根の大きな空間を活かした展示だ。打ち込みタイルは長瀞の風土を考えて、特注された。タイル特有の肌や目地の凹凸が美しい。建物高さは自然公園内のために13メートル以下とし、区域内の2本のメタセコイアに配慮して配置計画が練られた。
維持管理、運営の特徴
所有者と運営団体:埼玉県
過去の大規模改修など:2011年に全面改修を実施。
地質学のメッカであり、豊富な情報をどう伝えるのか工夫をしている。軒下に空のスズメバチをそのままに、トイレの壁には実物のコウモリのフンが展示されていたり、多様な自然との付き合い方を丁寧にユーモアを持って解説する。地質などに関心を持つ人たちは多く、長い歴史もある。2021年10月30日から2022年2月27日にかけて特別展「自然の博物館100年の軌跡」を開催している。充実した図録がある。資料によると当初から増築計画があったようだ。これから地球への関心は益々高まるだろう。今後を見通す博物館の姿を多くの人たちと思い描いてみたい。
周辺の見どころ
名勝及び天然記念物「長瀞」を訪ねて宮沢賢治も地質学の調査に訪れた。対岸には埼玉県立長瀞げんきプラザ(木島安史設計)、近くには極彩色の彫刻が美しい宝登山神社や玉泉寺、秩父鉄道長瀞駅舎(明治44年築)など訪ねたい場所が沢山ある。隣の寄居町には荒川に面して「川の博物館」がある。
写真:若林